自由民主党・公明党は平成30年12月14日、「平成31年度税制改正大綱」(与党大綱)を公表した。
今回の大綱取りまとめに当たり焦点となったのは、来年(2019年)10月1日から実施される消費税率10%引上げ後の景気の落ち込みを抑制する施策であり、増税後の自動車や住宅の購入に係る税制措置のさらなる拡充が図られることとなった。一方で、来年中に期限切れとなるものを含む租税特別措置については、単純な延長ではなく、その効果等を検証し適用要件の見直しが行われるものも多い。さらに相続法制の見直し及び成年年齢の引下げに関するそれぞれの改正民法を受け、税制においても新たな財産の評価方法や現行制度の見直しが行われている。
〇住宅・車体課税
車体課税については、平成31年10月1日に導入される自動車税の環境性能割について平成32年9月30日までの軽減措置、自動車税種別割の税率引下げ(恒久化)を行い、一方で自動車税のグリーン化特例や自動車取得税のエコカー減税については対象の絞り込みを行うなど抜本的な見直しが行われている。
住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除(住宅ローン控除)の特例が創設され、消費税等の税率が10%である場合の住宅の取得等について、適用年の10年目までは現行制度と同額の住宅借入金等特別控除を認めた上、11~13年目までの各年の控除額を消費税率2%引上げの負担に着目し、①住宅借入金等の年末残高(4,000万円(※)を限度)×1%と②〔住宅の取得等の対価の額又は費用の額-当該住宅の取得等の対価の額又は費用の額に含まれる消費税額等〕(4,000万円(※)を限度)×2%÷3のいずれか少ない金額とすることとされる(平成31年10月1日~平成32年12月31日)。
(※) 一般住宅の場合。認定長期優良住宅及び認定低炭素住宅の場合は5,000万円。
なお、住宅関連では他に、来年12月31日で期限切れとなる空き家に係る譲渡所得の3,000万円特別控除の特例について適用期限を平成35年12月31日まで4年延長した上、老人ホーム等に入所したことにより被相続人の居住の用に供されなくなった家屋・土地等について、一定の要件の下、適用を認めることとした(H31.4.1以後の譲渡から)。また、土地の売買による所有権の移転登記等に対する登録免許税の税率の軽減措置の適用期限は平成33年3月31日まで2年延長される。
〇中小企業関係税制、延長・一部見直し
中小企業者等の法人税率の特例(年800万円以下の所得金額について15%(本則19%))は平成33年3月31日までの2年延長。中小企業向けの主な設備投資減税(中小企業経営強化税制、中小企業投資促進税制、商業・サービス業・農林水産業活性化税制)もそれぞれ平成33年3月31日まで延長される。ただし、商業・サービス業・農林水産業活性化税制は「投資を含む経営改善により売上高又は営業利益の伸び率が年2%以上となる見込みであることについて認定経営革新等支援機関等の確認を受けること」という要件が追加され(H31.4.1以後取得等分)、中小企業経営強化税制についても特定経営力向上設備等の範囲の明確化・適正化を行うとしている。
※これら法人税関係の中小企業向けの各租税特別措置の適用に当たっては、適用不可とされる「みなし大企業」をめぐり改正が行われてる。
新たな税制措置としては、昨今頻発する自然災害を受け、中小企業・小規模事業者の事業継続力を強化するための設備投資を後押しするため、一定規模以上の自家発電機や制震・免震装置、照明器具や貯水タンク等の防災・減災を目的とした設備(特定事業継続力強化設備等)を取得等し事業の用に供した場合の特別償却(20%)制度が創設される。なおこの新制度は中小企業等経営強化法の改正が前提とされ(施行時期は同法の改正法の施行日~平成33年3月31日)、適用に当たっては一定の事業継続力強化計画又は連携事業継続力強化計画(仮称)を作成し経済産業大臣の認定を受ける必要がある。
公益法人等又は協同組合等の貸倒引当金の特例(繰入限度額の10%割増措置)については、来年3月31日をもって期限切れ(廃止)となる(5年間の経過措置あり)。
研究開発税制は、税額控除率の上乗せ措置の期限切れに合わせ、主に以下の見直しが行われる。まずオープンイノベーション型の対象範囲に民間企業(研究開発型ベンチャー(経産省が認定したファンドから出資を受けているベンチャー企業等))への一定の委託研究を追加等し控除上限を法人税額の10%(現行5%)に引き上げる。また総額型については、研究開発を行う一定のベンチャー企業の控除上限を法人税額の25%から40%に引き上げるとともに、税額控除率及び控除上限の上乗せ措置の適用期限を2年延長し、増加インセンティブを高めることを目的に、平成29年度改正に続きさらに控除カーブの見直し等を行う。これらにより高水準型は総額型に統合される構造となる。
〇個人事業者の事業用資産に係る納税猶予制度の創設
中小企業の事業承継を促進する措置については平成30年度税制改正において事業承継税制の特例措置が期間を10年に限定して導入されたところだが、平成31年度では新たに個人事業者の事業承継を促進する個人版の事業承継税制(個人事業者の事業用資産に係る贈与税・相続税の納税猶予制度)が、こちらも10年間の時限措置として創設される。
具体的には、贈与税の場合、一定の承継計画に記載され経営承継円滑化法の規定により認定を受けた後継者(認定受贈者)が、平成31年1月1日から平成40年12月31日までの間に贈与により特定事業用資産を取得し事業を継続する場合、担保の提供を条件に、認定受贈者が納付すべき贈与税額のうち贈与により取得した特定事業用資産の課税価格の100%に対応する贈与税額が猶予される。なお特定事業用資産とは、贈与者の事業(不動産貸付事業等を除く)の用に供されていた土地(面積400㎡まで)、建物(床面積800㎡まで)及び建物以外の減価償却資産(固定資産税又は営業用として自動車税もしくは軽自動車税の課税対象となっているもの等)をいう。その他、猶予税額の全額・一部免除や承継後の届出書等の提出要件など法人版の事業承継税制をベースに設計されている。
ただし、この個人版事業承継税制は、既存の個人版事業承継税制ともいえる特定事業用宅地等に係る小規模宅地等特例との選択適用となる。
特定事業用宅地等については、その範囲から、相続開始前3年以内に事業の用に供された宅地等(当該宅地等の上で事業の用に供されている減価償却資産の価額が、当該宅地等の相続時の15%以上である場合を除く)が除外されるという見直しが行われる。
※特定事業用宅地等をめぐる本特例については、相続税の申告期限までしか事業の継続要件がない等、上記以外にも制度上の問題点がいくつか指摘されている。小規模宅地等特例については、32年度以降の改正動向にも留意する必要がある。
〇改正相続法への対応
各改正項目の施行時期が判明した民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律(改正相続法)について、税制上の対応として次の事項が示された。
相続税における配偶者居住権等の評価額を次のように定めるとした。
イ 配偶者居住権
建物の時価-建物の時価×(残存耐用年数-存続年数)/残存耐用年数×存続年数に応じた民法の法定利率による複利現価率
ロ 配偶者居住権が設定された建物(以下「居住建物」という。)の所有権
建物の時価-配偶者居住権の価額
ハ 配偶者居住権に基づく居住建物の敷地の利用に関する権利
土地等の時価-土地等の時価×存続年数に応じた民法の法定利率による複利現価率
ニ 居住建物の敷地の所有権等
土地等の時価-敷地の利用に関する権利の価額
(注1) 上記の「建物の時価」及び「土地等の時価」は、それぞれ配偶者居住権が設定されていない場合の建物の時価又は土地等の時価とする。
(注2) 上記の「残存耐用年数」とは、居住建物の所得税法に基づいて求められている耐用年数(住宅用)に1.5を乗じて計算した年数から居住建物の築後経過年数を控除した年数をいう。
(注3) 上記の「存続年数」とは、次に掲げる場合の区分に応じそれぞれ次に定める年数をいう。
(イ) 配偶者居住権の存続期間が配偶者の終身の間である場合・・・配偶者の平均余命年数
(ロ) (イ)以外の場合・・・遺産分割協議等により定められた配偶者居住権の存続期間の年数(配偶者の平均余命年数を上限とする。)
(注4) 残存耐用年数又は残存耐用年数から存続年数を控除した年数が零以下となる場合には、上記イの「(残存耐用年数-存続年数)/残存耐用年数」は、零とする。
なお、配偶者居住権が設定された不動産については物納劣後財産(物納に充てることが認められる順位の低い財産)とされ、配偶者居住権の設定の登記については、登録免許税を課税することとされた(2/1,000)。
他の改正項目として、被相続人の療養看護等を無償で行い被相続人の財産の維持等に貢献した相続人以外の被相続人の親族(例えば長男の嫁等)に、相続人に対するその寄与に応じた金銭の請求が認められる特別寄与料については、被相続人から遺贈により取得したとみなし相続税の課税対象とされる。また特別寄与料を支払う相続人の課税価格からは、その額が控除される。
〇成年年齢の引下げに伴う見直し
「民法の一部を改正する法律」が平成34年4月1日から施行され成年年齢が20歳から18歳に引き下げられるが、税制上、年齢要件を20歳又は成年(未成年)としている制度は、対象者の行為能力や管理能力に着目して要件を定めているとの考えから、同法施行に合わせ、相続税の未成年者控除の対象者や、相続時精算課税制度および同特例・直系尊属からの贈与に係る贈与税の特例税率・非上場株式等に係る贈与税の納税猶予といった各制度における受贈者の年齢要件が20歳から18歳に引き下げられる。
〇世代間の早期資産移転を目的とした贈与税の非課税措置は縮減へ
平成31年3月31日に適用期限を迎える「教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置」及び「結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置」は、ともに平成33年3月31日まで2年延長されたものの、教育資金特例については受贈者の所得要件(1,000万円)が規定され23歳以上の者の教育資金の範囲の限定などが行われ、結婚・子育て資金特例も受贈者の所得要件(1,000万円)が追加された。
〇その他地方税、国際課税関係、ひとり親への対応
地方税源の偏在是正の問題への対応として、平成31年10月1日以後開始事業年度からの地方法人特別税の廃止と法人事業税への復元に合わせ、復元後の法人事業税(所得割・収入割)の一部(法人事業税の約3割)を特別法人事業税(仮)(国税(ただし賦課徴収は法人事業税と併せ都道府県が行う))として分離し、その全額を特別法人事業譲与税(仮称)として、人口を譲与基準として都道府県に譲与する仕組みが設けられる。
また、過度な返礼品が問題視されていたふるさと納税については、税額控除の対象となる団体を、一定の基準(返礼割合3割以下、地場産品等)に基づき総務大臣が指定したものに限られ、指定した都道府県等がその基準に適合しなくなった場合は指定を取り消すことができることとされた。
国際課税の関係では、過大支払利子税制においてBEPS勧告内容に合わせるため①対象となる利子②調整所得の定義③基準値についての見直し等を行い、移転価格税制では評価困難な無形資産取引に係る価格調整措置の導入、移転価格税制上の無形資産の定義の明確化などが行われている。
ひとり親をめぐる税制上の措置については、「子どもの貧困に対応するため、事実婚状態でないことを確認した上で支給される児童扶養手当の支給を受けており、前年の合計所得金額が135万円以下であるひとり親に対し、個人住民税を非課税とする措置を講ずる」とした上において「婚姻によらないで生まれた子を持つひとり親に対する更なる税制上の対応の要否等について、平成32年度税制改正において検討し、結論を得る。」とされている。