税務調査

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修正申告と更正

法的な相違は、「処分か処分でないか」だけであって、

〇修正申告は不服申立てができない

〇更正は賦課決定処分なので不服申立てできる

ということになります。

ただし、修正申告をしても加算税は別途で不服申立てできますし、修正申告に対して更正の請求ができますので、更正の請求が却下されれば不服申立てはできます。

 

更正だから納税者に不利益があるというのは法的には誤りで、むしろ不服申立てできる権利があるということでは更正が法的には有利といえます。

 

実務的な観点から修正申告と更正はどう違うのでしょうか

 税務調査の終了において修正申告をしないで更正されることを選ぶと、調査官との交渉・バーターなどは一切できません。税務署側からすると、税務調査を実施したうえで更正するということは、不服申立てがされることを前提にしますので、それに耐えうる資料・証拠を集める必要があります。更正においてグレーゾーンはなく、税務調査の現場ではよくある「Cは認容しますのでABで修正申告に応じて」という交渉・バーターはありません。修正申告は納税者側と税務署側の双方が納得すればいいのですが、更正はそうではありませんので、更正される方を選ぶと、資料・証拠を揃えるために調査の期間が長引く可能性があります。

 

税務調査の終わり方を更正ではなく修正申告にしたいのは、納税者側ではなく調査官の事情・内情ということになります。

調査官が更正を嫌がる理由は大きく3つあります。

〇不服申立てが前提となっている(資料・証拠を揃える負担が大きい)

〇附記すべき理由を曖昧にはできない(否認根拠を法令等で明確にしなければならない)

〇税務署内の手続きが面倒(税務調査の件数ノルマがこなせない)

 

税務調査では、納税者側としては「修正申告に応じるので、否認指摘事項の一部を取り下げて」と交渉した方が、結果としては納税者側の有利になりやすいというのが現実的な話かもしれません。

自主修正申告と税務調査

税務署にとって、自主修正申告というのはあまりに日常である(件数が多い)ことから、修正申告された行為自体に着目することはありません。また、一般的には自主修正申告をすることは税務調査を誘因するどころか、むしろ調査確率を下げることになります。

なぜなら、自主修正申告が提出されたということは税務署にとって、

〇真面目な納税者である 〇増差所得・税額が減った

という認識になるからです。たとえば、3期分・5期分などの遡り期間に関係はなく、修正申告による金額の多寡も調査選定に影響しません。

 調査の誘因になることがあり得るとするならば、修正申告の「理由」です。

自主修正申告をするくらいですから、自身で当初の申告誤りに気付いたということなのですが、修正申告の内容自体が「誤っているのでは?」と税務署が判断するようなことであれば、調査選定されることがあるでしょう。ただ、自主修正申告の場合、誤っていた内容が、たとえば簡易課税の業種区分の誤りなど明確であったり、誤っていた内容・理由などはわからないが修正申告書の内容を見る限り問題点はないというものがほとんどでしょうから税務署がわざわざ自主修正申告から積極的に調査選定する理由はありません。

自主修正申告については調査を誘因するどころか調査確率を下げることになりますから積極的に行うべきでしょう。

「外部からうかがい得る特段の行動」と重加算税

重加算税を課税する場合には、 故意に基づく隠ぺい仮装行為が必要であるというのが原則ですが、当初から所得等を過少に申告する意図であったことを外部からもうかがい得る特段の行動がある場合には重加算税の対象になるとした最高裁判例があります。

「外部からうかがい得る特段の行動」がある場合には、広重加算税が課税されるということです。

重加算税は、単純ミスではない意図的な不正がある場合のペナルティですので、単純ミスの過少申告と区分するために、申告のミス以外に隠ぺい仮装と評価できる行為が必要になります。

故意に基づく隠ぺい仮装行為が必要であるという上記の原則についての問題点として、たとえば、①隠ぺい工作を全くしない、②どうせ見つからないだろうと思って所得をまったく申告しない、という場合、申告に隠ぺいはあるものの、申告以外に隠ぺいはないことがあります。このような悪質性のある申告もれには重加算税は課税されるべきでしょう。

最高裁判例も、このような事情を考慮した上で、隠ぺい工作がなくても、客観的に見て隠ぺいする意図が明白であれば、重加算税を課税できるとしたのが「外部からうかがい得る特段の行動」の意味するところです。

 あらゆる場合において隠ぺい仮装の故意がなくても重加算税の対象になるというのは行き過ぎですが、あからさまに不正と言える申告もれがあれば、明確な隠ぺい仮装がなくても重加算税が課税される場合があることに留意する必要があります。

過去の判例によると、

(1)税務調査で虚偽答弁がある場合
(2)申告に当たって税理士に見せるべき資料を秘匿した場合
(3)意図的な過少申告を何年にもわたり続けていた場合
(4)通常保存する資料を散逸させて分かりにくくする場合
など、国税から見て悪質性が高いと判断する場合が挙げられています。

 重加算税については、隠ぺい仮装の故意が必要であることが原則ですが、隠ぺい仮装の故意がなければ、重加算税をまったく課税できないというのでは上記のような問題が生じるので、「外部からうかがい得る特段の行動」のような露骨な不正については隠ぺい仮装の故意があると同視できるとしているわけで、悪質性がない場合には、隠ぺい仮装の故意がない限り、原則通り、当然に重加算税を課税すべきではないということです。

 

税務調査で7年遡及される要件

更正決定で7年遡及される根拠となるのは、次の法律規定になります。

(国税通則法第70条第4項)
次の各号に掲げる更正決定等は、第一項又は前項の規定にかかわらず、第一項各号に掲げる更正決定等の区分に応じ、同項各号に定める期限又は日から七年を経過する日まですることができる。
一 偽りその他不正の行為によりその全部若しくは一部の税額を免れ、又はその全部若しくは一部の税額の還付を受けた国税についての更正決定等

 この「偽りその他不正の行為」を単純に言い換えると「脱税行為」になります。

 (「偽りその他不正の行為」を争った直近の裁決事例)
偽りその他不正の行為が認められないとして処分を取り消した事例(平成17年分~平成23年分の所得税に係る過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分、平18.1.1~平23.12.31の各課税期間の消費税及び地方消費税に係る過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分・全部取消し・平成26年1月17日裁決)

《要旨》
 原処分庁は、平成17年分の売上金額の一部を隠ぺい又は仮装行為に基づく申告漏れと認定しているが、当該隠ぺい又は仮装行為に基づく申告漏れに対応する所得金額は異議決定により算出されないとしたから、それに対応する所得税額は存在しない。
 そうすると、平成17年分の所得税の修正申告により納付すべき税額は、平成17年分の売上金額の残部(上記売上金額の一部以外の部分)の申告漏れに係るものであると認められる。
 ところで、国税通則法第70条《国税の更正、決定等の期間制限》第4項は、納税者が「偽りその他不正の行為」により国税を免れた場合の加算税の賦課決定の除斥期間を7年と規定しているところ、当審判所が上記申告漏れの態様を調査した結果によれば、平成17年分の売上金額の残部が申告漏れとなったことについて、請求人が自らに帰属しないような外形を作出したとか、本件調査において、請求人が真実の所得を秘匿するため、虚偽の資料を作成し又は領収証の控えつづりを秘匿するなどして、これらの申告漏れが発覚し難い状況を作出したとかの事実を認めることはできず、請求人が平成17年分の所得税の賦課徴収を不能又は困難にするような何らかの偽計その他の工作を伴う不正な行為を行ったとはいえないから、平成17年分の売上金額の残部の申告漏れに係る行為は、国税通則法第70条第4項に規定する「偽りその他不正の行為」には該当しないというべきである。

[参照条文等] 国税通則法第70条第4項
「売上金額の残部が申告漏れとなったことについて、請求人が自らに帰属しないような外形を作出したとか、本件調査において、請求人が真実の所得を秘匿するため、虚偽の資料を作成し又は領収証の控えつづりを秘匿するなどして、これらの申告漏れが発覚し難い状況を作出したとかの事実を認めることはできず、請求人が平成17年分の所得税の賦課徴収を不能又は困難にするような何らかの偽計その他の工作を伴う不正な行為を行ったとはいえない」というような具体的な脱税行為がない限り、計上漏れが連年にわたる場合でも、7年遡及はできないとなります。(最長でも5年遡及ということになります。)

相続税の更正の請求の期限

更正の請求ができる期間が法定申告期限から5年間です。(平成23年12月2日以後に法定申告期限が到来する国税国税通則法第23条第1項各号、)

相続税では、相続に生じる特有の理由により税額が減少する場合があります。たとえば遺産が未分割のため法定相続分で申告しており、その後分割協議が調い、未分割のため適用できなかった配偶者の税額軽減や小規模宅地の特例が受けられるようになった、遺留分侵害額請求権の金額が確定した、法定相続分よりも取得割合が減ったなどの場合です。(相続税法第32条第1項各号)

これらの更正の請求理由が発生した場合、これらの事由が生じたことを知った日の翌日から4月以内に限り、更正の請求をすることができると規定されています。上記の減額理由が発生した場合、これらの事由が生じたことを知った日の翌日から4月した後においては、法定申告期限から5年以内の更正の請求できません。

国税通則法第23条第1項各号に規定に規定する更正の請求の要件は、「当該申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったこと」とされています。当初の申告が国税に関する法律の規定に従っており、計算に誤りがなければ更正の請求はできません。その上で、相続税法第32条第1項各号に該当すれば、特例として更正の請求を認めるとなっています。遺産が未分割のための法定相続分での申告は、「国税に関する法律の規定に従って」おり、国税通則法第23条第1項各号による更正の請求はできません。

相続税法第32条第1項と国税通則法第23条第1項の双方に該当する場合、たとえば、配偶者の税額軽減は相続税法19条の2第3項に更正の請求でも適用がある旨が規定されており、国税通則法による更正の請求ができます。よって、更正の請求ができる期限は、法定申告期限から5年間か遺産分割が確定してから4ヶ月かいずれか遅い日となります(相基通32-2)。なお、小規模宅地の特例は、上記のような規定がなく、遺産分割確定後4ヶ月を越えた場合、更正の請求はできません。

 ※裁判などによって、相続財産だと思っていた財産が実は他人の物だと確定した場合など、国税通則法第23条第2項各号にも更正の請求ができる場合が規定されています。

社長の私的な経費を役員貸付金とした場合の利息は役員給与となるか

国税庁タックススアンサーNo.5202 役員に対する経済的利益

1 経済的利益とは

法人が役員に支給する給与には、金銭によるもののほか、債務の免除による利益その他の経済的な利益も含まれます。この経済的な利益とは、例えば次に掲げるもののように、法人の行為によって実質的にその役員に対して給与を支給したと同様の経済的効果をもたらすものをいいます。

  1. (1) 資産を贈与した場合におけるその資産の時価
  2. (2) 資産を時価より低額で譲渡した場合における時価と譲渡価額との差額
  3. (3) 債権を放棄し又は免除した場合における債権の放棄額等
  4. (4) 無償又は低額で居住用土地又は家屋の提供をした場合における通常取得すべき賃貸料の額と実際徴収した賃貸料の額との差額
  5. (5) 無利息又は低率で金銭の貸付けをした場合における通常取得すべき利率により計算した利息の額と実際徴収した利息の額との差額
  6. (6) 役員を被保険者及び保険金受取人とする生命保険契約の保険料の額の全部又は一部を負担した場合におけるその負担した保険料の額の負担額

ただし、法人が役員に対し経済的な利益の供与をした場合において、それが所得税法上経済的な利益として課税されないものであり、かつ、当該法人がその役員に対する給与として経理しなかったものであるときは、給与として扱われません。

2 経済的利益の法人税法上の取扱い

役員に対して継続的に供与される経済的利益のうち、その供与される利益の額が毎月おおむね一定であるものは定期同額給与に該当し、損金の額に算入されますが、その他のものは定額同額給与に該当せず、損金の額に算入されません。

(注) 法人が使用人兼務役員に対して供与した経済的な利益の額(住宅等の貸与をした場合の経済的な利益を除きます。)が他の使用人に対して供与される程度のものである場合には、その経済的な利益の額は使用人としての職務に係るものとされ、損金の額に算入されます。
 また、役員に対する経済的利益の額(使用人兼務役員に対する使用人部分を除きます。)が不相当に高額である場合や法人が事実を隠ぺいし又は仮装して経理することにより、その役員に対して供与した経済的な利益の額は損金の額に算入されません。

(法法22、34、法令69、70、法基通9-2-9~11、9-2-24)


無利息もしくは低利であれば、役員は経済的利益を享受してますが、適正利率を設定していれば、その役員に経済的利益は発生していないことになります。

[令和2年4月1日現在法令等]

1 役員又は使用人に貸し付けた金銭の利息について

 役員又は使用人に金銭を貸し付けた場合、その利息相当額は、次に掲げる利率によります。

  1. (1) 会社が他から借り入れて貸し付けた場合・・・・・・その借入金の利率
  2. (2) その他の場合・・・・・・貸付けを行った日の属する年に応じた次に掲げる利率
  1. 平成22年から25年中に貸付けを行ったもの・・・・・・4.3%
  2. 平成26年中に貸付けを行ったもの・・・・・・・・・・1.9%
  3. 平成27年から28年中に貸付けを行ったもの・・・・・・1.8%
  4. 平成29年中に貸付けを行ったもの・・・・・・・・・・1.7%
  5. 平成30年~令和2年中に貸付けを行ったもの・・・・・・1.6%

 役員又は使用人に無利息又は低い利息で金銭を貸し付けた場合には、次の2の場合を除き、上記の利率により計算した利息の額と実際に支払う利息の額との差額が、給与として課税されることになります。

 なお、使用人に対する住宅資金の貸付けを平成22年12月31日までに行った場合には、年1%の利率を基準とする特例があります。

2 金銭を無利息又は低い利息で貸し付けたとき

 役員又は使用人に無利息又は低い利息で金銭を貸し付けた場合に、次の(1)から(3)までのいずれかに該当する場合には、上記1にかかわらず、給与として課税しなくてもよいことになっています。

  1. (1) 災害や病気などで臨時に多額の生活資金が必要となった役員又は使用人に、その資金に充てるため、合理的と認められる金額や返済期間で金銭を貸し付ける場合
  2. (2) 会社における借入金の平均調達金利など合理的と認められる貸付利率を定め、この利率によって役員又は使用人に対して金銭を貸し付ける場合
  3. (3) (1)及び(2)以外の貸付金の場合で、上記1の利率により計算した利息の額と実際に支払う利息の額との差額が1年間で5,000円以下である場合





税務調査での誤った回答は虚偽答弁として重加算税か

たとえば、売上漏れが重加算税になるかどうかは、納税者の発言・回答が虚偽答弁に該当するかどうかにかかってきます。
虚偽答弁であれば重加算税になるというのは下記に規定されています。

申告所得税及び復興特別所得税の重加算税の取扱いについて(事務運営指針)
第1 賦課基準
(隠蔽又は仮装に該当する場合)
1(8)
調査等の際の具体的事実についての質問に対し、虚偽の答弁等を行い、又は相手先をして虚偽の答弁等を行わせていること及びその他の事実関係を総合的に判断して、申告時における隠蔽又は仮装が合理的に推認できること。

納税者が「事実と相違する回答」をしている場合に、事実を知りながら事実と相違する回答であれば、当然に虚偽答弁として重加算税が課されるべきです。

一方で、忘れていた、勘違い、思い込みであれば、虚偽答弁にはならないのです。
最終的には事実認定の問題になるわけですが、数年前のことをすべて覚えている経営者なんているわけもなく、たった数件の、数万・数十万円の入金であればなおさらです。

 回答、発言と相違した事実が発覚した場合は、調査官に対して虚偽答弁なのではなく、忘れていただけ、勘違いしていただけということをいかに主張できるかが大切です。

税務調査においては「事実関係がはっきりと覚えていない内容に関しては積極的に発言しないこと」「確認してから回答します」とすることが必要です。

 

虚偽答弁=重加算税になるかどうかの

論点は対応が面倒で、重加算税を賦課したい

調査官としても譲れない論点です。

 

ぜひ、顧問先の発言・回答に注意してください。

税務調査でコピーをとらせるのか

税務調査では、調査官に資料のコピーを求められることがあります。
この場合、
〇本来あるべき税務調査とは、帳簿書類を備え付けている事業所などで原始資料を見ながら行うべきもの
〇コピーを渡すことで調査官の質問検査への対応について納税者に負担が増える
ということがあります。
さらに、
〇コピーをとることを依頼されると納税者側の労力が増える
〇コピー代まで負担したくもない
ということもあります。

税務調査では、調査官に「帳簿書類等(原始帳票類を含む)を提示、提出すること」が義務なのであって、税務署に持ち帰らせるためにコピーをとらせるかどうかは納税者の任意であるということの認識を持つことが大事です。

次に考えることは、コピーをとらせれば、税務調査を早く終わらせるということ。
コピーをとらせなければ事業所が占有され、対応する時間が余計にかかるということにもなります。この点からは内容を十分に精査して、余計な誤解を招かない差しさわりのないものはコピーさせることもあっていいかもしれません。

また、本来必要のない原始帳票類までコピーをとらされ労力がかかるということについては、コピー代金を実費請求をするすればよいです。コンビニでのコピー料金は、おおむね白黒で1枚10円、フルカラーで1枚50円です。
コピー代金は納税者が負担するべきではないです。本来は、調査官がコピー機を持ち込んでコピーをとればいいのです(簡易コピー機でも、実際に持ち込むのは調査官に大変な労力がかかりますが。)。簡易コピー機まで持ってくるというなら電源も。
これを納税者が負担するのなら実費請求は納税者としては当然のことです。

なお、調査官は「これをコピーとってください」などと簡単に言いますが、「コピー機はそこにあって貸しますので自分でコピーしてください」と言うことは納税者としては当然の態度ですが、調査官にコピーさせるのではなく、あえて納税者側でコピーをとった方がよいのです。税務調査では、どの帳票類をコピーをとったのかが大事です。どこを調べられているのかをはっきりとつかんでおく必要があるのです。

 

調査官のコピーの持ち帰りを断ることができるか

「提出」と「留置き」の区分について、調査で資料をコピーして渡した場合、調査官が持って帰るのを断ることはできるのでしょうか。

 

「留置き」というのは調査官の強制的な権限なのではなく、調査対象者の「理解と協力の下、その承諾を得て行う。」行為です。

 

国税通則法第74条の7(提出物件の留置き)

国税庁等又は税関の当該職員は、国税の調査について必要があるときは、当該調査において提出された物件を留め置くことができる。

 

調査手続の実施に当たっての基本的な考え方等について(事務運営指針)

第2章 基本的な事務手続及び留意事項

3 調査時における手続

() 帳簿書類その他の物件の提示・提出の求め調査について必要がある場合において、質問検査等の相手方となる者に対し、帳簿書類その他の物件(その写しを含む。)の提示・提出を求めるときは、質問検査等の相手方となる者の理解と協力の下、その承諾を得て行う。 

 

さらに、
(5) 提出を受けた帳簿書類等の留置き

提出を受けた帳簿書類等の留置きは、

①質問検査等の相手方となる者の事務所等で調査を行うスペースがなく調査を効率的に行うことができない場合

②帳簿書類等の写しの作成が必要であるが調査先にコピー機がない場合

③相当分量の帳簿書類等を検査する必要があるが、必ずしも質問検査等の相手方となる者の事業所等において当該相手方となる者に相応の負担をかけて説明等を求めなくとも、税務署や国税局内において当該帳簿書類等に基づく一定の検査が可能であり、質問検査等の相手方となる者の負担や迅速な調査の実施の観点から合理的であると認められる場合など、

やむを得ず留め置く必要がある場合や、質問検査等の相手方となる者の負担軽減の観点から留置きが合理的と認められる場合に、留め置く必要性を説明し、帳簿書類等を提出した者の理解と協力の下、その承諾を得て実施する。

 

税務調査において調査官が当然のように帳簿等を持ち帰ろうとする場合は、この規定に反していることになります。

留置きには要件があるのです。

調査官が帳簿等を持ち帰ろうとした際には、

〇その必要性がどこにあるのか

〇その必要性は上記事務運営指針のどこに該当するのか

を確認し、必要性の説明がなければ実質的に拒否することもできるということです。

①については、調査を行うスペースを確保すれば足りますし、
②については簡易コピー機を持ち込んでくればよいこと、
③については、「質問検査等の相手方となる者の負担や迅速な調査の実施の観点から合理的であると認め」るのは調査官ですが、「理解と協力の下、その承諾」をするのは納税者です。日程調整して臨場する機会を確保すれば、「質問検査等の相手方となる者の負担や迅速な調査の実施」できます。そのために税務調査の期間が延びたとしても納税者としてはやむを得ないことでもあります。

 

 

それでは、調査官のコピーの持ち帰りを断ることができるのでしょうか。

税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)

問4 提出される物件が、調査の過程で調査担当者に提出するために新たに作成された写しである場合には、留置きには当たらないとのことですが、自己の事業の用に供するために調査前から所有している物件が写しである場合(取引書類の写しなど)であっても、留置きには当たらないのでしょうか。

(答)

調査の過程で調査担当者に提出するために新たに作成した帳簿書類等の写し(コピー)の提出を受けても留置きには当たらないこととしているのは、通常、そのような写し(コピー)は返還を予定しないものであるためです。他方、納税者の方が事業の用に供するために保有している帳簿書類等の写し(コピー)をお預かりする場合は、返還を予定しないものとは言えませんから、留置きの手続によりお預かりすることとなります。

 

返還を予定されている、たとえば原資資料や帳簿などを調査官が持ち帰る行為は「留置き」に該当しますので、納税者の任意(=拒否できる)となりますが、一方で、調査中にとったコピーについては返還しないので「提出」に該当することにあり、持ち帰りを拒否することはできません。
調査中にコピーをとってしまったら持ち帰りを拒否はできないのです。


提出と留置きの区分は、返還を予定している(原本)かどうかで判断することになりますので、納税者の手元にコピーしかない場合はそれが原本になり、原本であるコピーを持ち帰るのは「留置き」、そのコピーのコピーをとれば「提出」となるということです。

 

「提示・提出」と「留置き」の違い

質問検査権については次のように規定されています。

 

国税通則法第74条の2

その者の事業に関する帳簿書類その他の物件を検査し、又は当該物件(その写しを含む。)の提示若しくは提出を求めることができる。

 

「提示・提出」の定義は通達に規定されています。

 

国税通則法第7章の2(国税の調査)

関係通達の制定について(法令解釈通達)

1-6(「物件の提示又は提出」の意義)

法第74条の2から法第74条の6までの各条の規定において、「物件の提示」とは、当該職員の求めに応じ、遅滞なく当該物件(その写しを含む。)の内容を当該職員が確認し得る状態にして示すことを、「物件の提出」とは、当該職員の求めに応じ、遅滞なく当該職員に当該物件(その写しを含む。)の占有を移転することをいう。

 

「留置き」の定義は通達に規定されています。

 

2-1(「留置き」の意義等)

(1)法第74条の7に規定する提出された物件の「留置き」とは、当該職員が提出を受けた物件について国税庁、国税局若しくは税務署又は税関の庁舎において占有する状態をいう。

 

「提出」は「資料を調査官に提出=税務署に持って帰られる」ということではありません。「提出」とは、税務調査の場で調査官が資料等を手に取る(占有の移転)行為を指します。実質的には、税務調査においては「提示」と「提出」を区分する必要はありません。
「留置き」は税務署の庁舎内に置く(占有)することを指します。

 

「提示・提出」と「留置き」の区分は大事で、その場で資料を確認するのか、税務署に持って帰るのかが分岐点になります。

「提示・提出」は調査官に持って帰られることを断ることはできず、「留置き」=断ることができるということです。

「留置き」は、税務調査の協力の範囲外であり、断っても問題はありません

(1)「提出」された物件を「税務署などの庁舎」で「占有」することが「留置き」ですから、「提出」と「留置き」は意味が違います

 

税務調査関係通達2-1(「留置き」の意義等)

 (1)法第74条の7に規定する提出された物件の「留置き」とは、当該職員が提出を受けた物件について国税庁、国税局若しくは税務署又は税関の庁舎において占有する状態をいう。ただし、提出される物件が、調査の過程で当該職員に提出するために納税義務者等が新たに作成した物件(提出するために新たに作成した写しを含む。)である場合は、当該物件の占有を継続することは法第74条の7に規定する「留置き」には当たらないことに留意する

 

 

(2)調査対象物件の「提出」は「留置き」の前段階として行われる別の手続きです。

 

「国税通則法(税務調査手続関係)通達逐条解説 平成30年版」P53

物件の「提出」は、物件の留置き(預かり)(法74条の7)の前提として行われる場合のほか、納税義務者等への返還を予定しないで行われる場合もあるが、いずれの場合も、納税義務者等の下(事業所等)で物件が一時的に示される「提示」とは異なり、当該職員が一定期間その物件を支配下に置いて、物件の内容を確認するために行われるものである。

 

 税務調査が実施されてから、国税側ないし納税者が 帳簿書類をコピーして国税に渡す場合には「提出」に該当し、税務調査前から納税者が保有している帳簿書類のコピーを国税側が持ち帰る場合は「留置き」になります。

 

税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)

 問4 提出される物件が、調査の過程で調査担当者に提出するために新たに作成された写しである場合には、留置きには当たらないとのことですが、自己の事業の用に供するために調査前から所有している物件が写しである場合(取引書類の写しなど)であっても、留置きには当たらないのでしょうか。

(答)調査の過程で調査担当者に提出するために新たに作成した帳簿書類等の写し(コピー)の提出を受けても留置きには当たらないこととしているのは、通常、そのような写し(コピー)は返還を予定しないものであるためです。他方、納税者の方が事業の用に供するために保有している帳簿書類等の写し(コピー)をお預かりする場合は、返還を予定しないものとは言えませんから、留置きの手続によりお預かりすることとなります

 

 (3)「留置き」は法律上行政処分とされています。行政処分について違法があればそれを裁判で争うことができるのですから、「留置き」が拒否できないなどということはありません。

 

「国税通則法(税務調査手続関係)通達逐条解説 平成30年版」P63~64  
 留置きは、行審法第1条(目的等)第2項に規定す「公権力の行使に当たる行為」に当たり、同法上の「処分」に該当することから、物件を提出した納税義務者等が返還を請求しているか否かにかかわらず、納税義務者等は物件が留め置かれていること(すなわち、処分)に対して同法に基づく不服申立てをすることも可能であると考えられる。

この場合、税務署に所属する職員がした留置きに対しては国税庁長官に審査請求をすることとなろう(行審法第5条(再調査の請求))。また、国税通則法に基づく不服申立てとは異なり、直接、取消訴訟を提起することも可能であると考えられる(行訴法第8条(処分の取消しの訴えと審査請求との関係))。

 

 

(4)国税としても「留置き」を
納税者に強制できないことは十分に承知しています。

 

税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)

 問10 調査担当者から、提出した帳簿書類等の留置き(預かり)を求められました。その必要性について納得ができなくても、強制的に留め置かれることはあるのですか。

 

(答)税務調査において、例えば、納税者の方の事務所等に十分なスペースがない場合や検査の必要がある帳簿書類等が多量なため検査に時間を要する場合のように、調査担当者が帳簿書類等を預かって税務署内で調査を継続した方が、調査を円滑に実施する観点や納税者の方の負担軽減の観点から望ましいと考えられる場合には、帳簿書類等の留置き(預かり)をお願いすることがあります。帳簿書類等の留置き(預かり)は、帳簿書類等を留め置く必要性を説明した上、留め置く必要性がなくなるまでの間、帳簿書類等を預かることについて納税者の方の理解と協力の下、その承諾を得て行うものですから、承諾なく強制的に留め置くことはありません。


 

 (5)国税通則法74条の7(提出物件の留置き)に規定する「留置き」は罰則の対象外とされています。

 

国税通則法127条

次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
三 第七十四条の二から第七十四条の六までの規定による物件の提示又は提出の要求に対し、正当な理由がなくこれに応じず、又は偽りの記載若しくは記録をした帳簿書類その他の物件(その写しを含む。)を提示し、若しくは提出した者


  罰則として規定がない以上、「留置き」を拒否しても刑罰に問われることはありません。「留置き」は、税務調査の協力の範囲外であり、拒否することに問題はありません。

説明責任と立証責任の分岐点

税務調査において納税者が負う説明責任と、国税側が負う立証責任の分岐点はどのあたりにあるのか。

 

税務調査において国税と納税者の責任(義務)は次のとおりです。

 

国税:質問検査権があり、否認指摘に対して原則として立証責任を負う

 

納税者:受忍義務があり、所得・税額の計算内容・過程などに回答する責任がある(国税通則法第127条第2・3項)

 

つまり、

 

調査官が質問などをする ⇒ 納税者がこれに対して回答をする ⇒ まだ不明点がある ⇒ 資料などを提示して具体的に説明する ⇒ ここまでが【説明責任】 ⇒ 調査官が否認指摘をする ⇒ それに対して反論をする ⇒ 

否認のための証拠資料等を集める ⇒ 説明責任を果たした後の部分が【立証責任】。

 

(1)実地調査後、申告した売上と、調査官が署内で集計した売上と一致しないから、納税者と再度話をするか、

私(税理士)に申告額が正しい旨の根拠書類を作成するよう依頼された。

 

 当初申告額に対して納税側に説明責任があります。申告額が正しい旨の根拠書類の作成まで応じる必要はありません(資料を基に説明すれば足りる)が、売上のみが焦点になっているのであれば、その売上に係る申告額の計算根拠は説明する必要があります。こちらが申告額の計算根拠を明示したうえで、調査官が否認指摘をするのであれば、その立証責任は調査官側にあることになります。

 

(2)個人が所有するビルを売却した。不動産の取得時期は古く、かつ相続で取得している。資料等からは取得価額が不明のため土地の取得価額については全国市街地価格指数を用いて算出しました。税務調査では、全国市街地価格指数ではなく5%の取得価額と指摘された。

 

 当初申告において合理的と判断した結果の取得費を申告納税制度に基づき、計算したわけですから、説明責任を十分果たしています。これにつき合理的でないと言うのであれば、そうでない理由を立証する責任は、国税側にあります。

 

(3)売り上げにつき現金の回収があり、領収書を出しています。回収された現金は、すぐに通帳に入金されます。

この通帳を見ながら、売上の入力をしています。

また、月次の回収額については、エクセルで別途資料を作成している。調査官から「売上の元帳から現金売上を抜き出した合計額」と、「月次のエクセル資料の月次合計額」とが一致しないのですが、という質問を受けた。

 

 会社が保有している原資記録と実際の記帳の流れを説明し、資料を提示すれば、それに対して調査・確認するのは国税(調査官)側の仕事です。

 資料相互間の差異の具体的な指摘に対しては、納税者として説明・回答義務があります。一方で、合計額が一致しないというような漠然とした問いは、具体的な質問になっていないので回答する必要はない。

 

  税務調査において、納税者側として 説明を尽くしてしても、それに対してまだ調査官が説明を求めてくる、もしくは立証責任を押し付けてくることがあります。納税者側に説明責任・義務は当然ありますが、それを果たしたのか、果たした後であれば国税(調査官)側の責任・義務であることをきちんと切り分けて主張することが大事です。

 

 

源泉所得税の不納付加算税の取扱いについて(事務運営指針)

https://www.nta.go.jp/law/jimu-unei/shotoku/gensen/000703/01.htm

源泉所得税の重加算税の取扱いについて(事務運営指針)

https://www.nta.go.jp/law/jimu-unei/shotoku/gensen/000703-2/02.htm

相続税、贈与税の過少申告加算税及び無申告加算税の取扱いについて(事務運営指針)

https://www.nta.go.jp/law/jimu-unei/sozoku/170111_1/01.htm

相続税及び贈与税の重加算税の取扱いについて(事務運営指針)

https://www.nta.go.jp/law/jimu-unei/sozoku/170111_2/01.htm

消費税及び地方消費税の更正等及び加算税の取扱いについて(事務運営指針)

https://www.nta.go.jp/law/jimu-unei/shozei/000703/01.htm

法人税の過少申告加算税及び無申告加算税の取扱いについて(事務運営指針)

https://www.nta.go.jp/law/jimu-unei/hojin/100703_01/00.htm

法人税の重加算税の取扱いについて(事務運営指針)

https://www.nta.go.jp/law/jimu-unei/hojin/100703_02/00.htm

申告所得税及び復興特別所得税の重加算税の取扱いについて(事務運営指針)

申告所得税及び復興特別の過少加算無取扱いにつて(事務運営指針)

質問応答記録書への署名・押印

税務調査の現場では、特に重加算税の賦課や、法人経費に個人的支出を紛れ込ませていたなど、本人の「自供」を証拠として取りたい場合などに調査官が求めてくるのが「質問応答記録書」です。

調査官が書面を求めてくるというのは、「書面がなければ課税できない」ということです。

この書面への署名・捺印は断ることができます。

「回答者が署名押印を拒否した場合は、どのようにすればよいのか」
(答)
読み上げ・提示の後、回答者から回答内容に誤りがないことを
確認した上で、その旨を証するため、末尾に「回答者」と
表記した右横のスペースに回答者の署名押印を求めることとなるが、
署名押印は回答者の任意で行うべきものであり、これを
強要していると受け止められないよう留意する。
したがって、回答者が署名押印を拒否した場合には、
署名押印欄を予定していた箇所を空欄のまま置いておき、
奥書で、回答者が署名押印を拒否した旨(本人が拒否理由を
述べる場合にはそれも附記する)を記載し、また、回答者が
署名押印を拒否したものの、記載内容に誤りがないことを
認めた場合にはその旨を記載する。

(「質問応答記録書作成の手引について(情報)」
国税庁 課税総括課情報 第3号 平成25年6月26日
この35ページ・問15)


法定書類でないものを税務署が提出依頼する行為は「行政指導」に該当します。

行政手続法第32条第2項
行政指導に携わる者は、その相手方が行政指導に従わなかったことを理由として、不利益な取扱いをしてはならない。

つまり、「調査官は、納税者が質問応答記録書の提出を断ったからといって、不利益な取扱いをしてはならない。」となります。



税務調査で調査手続きが守られなかった場合

平成25年1月以降、国税通則法の改正により税務調査の手続きは細かく定められましたが、現実の税務調査では、調査官はこれらの細かい調査手続きを守っていないことが多い。

税務調査で調査手続きが守られなかった場合の違法性は?

もちろん、国税通則法第74条の2以降に規程される調査手続きが守られなかった場合は、「国税通則法」違反ということになります。

調査手続きの多くは、
法令解釈通達
「国税通則法第7章の2(国税の調査)関係通達の制定について」
http://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/tsutatsu/kobetsu/zeimuchosa/120912/index.htm

事務運営指針
「調査手続の実施に当たっての基本的な考え方等について」
http://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/jimu-unei/sonota/120912/


に定められているわけです。これらに違反していた場合は?

法令解釈通達と事務運営指針は、ともに「通達」に該当します。
「通達」とは、「上級行政庁が下級行政庁に対し,細目的な職務事項や法律の解釈・判断の具体的指針を示し,行政上の処理の統一を期するために文書をもって発する指示」(大辞林)であり、税務行政においては、税務署職員が「守らなければならない」命令・規則です。

法令解釈通達や事務運営指針に違反するということは、調査官が通達=国税の規則・命令に違反しているということです。

公務員は法律だけではなく、定められた命令や規則を守らなければなりません。

国家公務員法105条(職員の職務の範囲)
職員は、職員としては、法律、命令、規則又は指令による職務を担当する以外の義務を負わない。

調査官にとってみれば、法令解釈通達や事務運営指針などの「通達」が命令・規則に該当します。
法令解釈通達や事務運営指針に定められた調査手続きに違反するというのは、「国家公務員法」違反となります。

国家公務員法98条(法令及び上司の命令に従う義務並びに争議行為等の禁止)
職員は、その職務を遂行するについて、法令に従い、且つ、上司の職務上の命令に忠実に従わなければならない。

違反した場合は、懲戒の対象になります。

国家公務員法82条(懲戒の場合)
職員が、次の各号のいずれかに該当する場合においては、これに対し
懲戒処分として、免職、停職、減給又は戒告の処分をすることができる。
二  職務上の義務に違反し、又は職務を怠った場合

調査手続きについては、通則法はもちろんのこと、法令解釈通達と事務運営指針を知っておく必要があります。

税務調査での「修正申告」と「更正・決定」の違い

税務調査で誤りがあった場合、「修正申告」と「更正・決定」(税務署による処分)の違いは?

税務調査で誤りがあった場合は、更正・決定すると規定されており、更正・決定の説明をする際に、調査官が「修正申告を提出してもいいですよ」とすすめることができるとされています。

 国税通則法第74条の11(調査の終了の際の手続)
2 国税に関する調査の結果、更正決定等をすべきと認める場合には、当該職員は、当該納税義務者に対し、その調査結果の内容(更正決定等をすべきと認めた額及びその理由を含む。)を説明するものとする。

3 前項の規定による説明をする場合において、当該職員は、当該納税義務者に対し修正申告又は期限後申告を勧奨することができる。この場合において、当該調査の結果に関し当該納税義務者が納税申告書を提出した場合には不服申立てをすることはできないが更正の請求をすることはできる旨を説明するとともに、その旨を記載した書面を交付しなければならない。

更正・決定をされたからといって、税務署から不利益な取り扱いをされることなどありません。また、本税、加算税、延滞税ともに金銭的な負担は同じです。
 
 修正申告と更正・決定の違いは、

○修正申告:不服申立てをすることができない
○更正・決定:不服申立てをすることができる

ということ。

修正申告は納税者がみずから提出するもの(国税通則法第19条)ですから、修正申告の内容に納得がいかなくても、不服申立てをすることができません。
更正・決定は税務署による処分(国税通則法第24条)ですから、その内容に納得がいかなければ場合、不服申立てをすることができます。

国税通則法第75条(国税に関する処分についての不服申立て)
国税に関する法律に基づく処分で次の各号に掲げるものに不服がある者は、当該各号に掲げる不服申立てをすることができる。

 

調査官から、「修正申告=有利」「更正=不利」のような提案を受けたとするなら、それは修正申告の勧奨ではなく強要、脅しということになり質問検査権を逸脱した行為ということになります。

安易に修正申告を提出するのではなく、税務調査における否認指摘に納得できない場合など、更正を選択することも検討しないといけません。

 

調査官が更正・決定ではなく、修正申告で税務調査を終わらせたい理由は?

調査官が更正・決定ではなく、修正申告で税務調査を終わらせたいのはおおよそ次のような理由によるものです。
①税務署内の手続きが面倒
修正申告を勧奨すれば、基本的に担当統括官の決裁だけで税務署内の手続きは終了します。更正となると手続き決裁が面倒で、時間も労力も要します。
②附記すべき理由があいまい
税務調査において調査官が否認指摘をしても、その根拠が曖昧であることが多くあります。税務調査の結末が修正申告であれば、その根拠がいくら曖昧でも、「納税者が納得して提出するもの」である以上、問題にはなりません。更正となると、否認根拠を法令で明確にしなければなりませんから、附記すべき否認根拠を挙げるが面倒で難しいのです。
③不服申立てが前提となっている
更正をすると、かなり高い割合で異議申立てが行われます。そうなると、再調査(実質審理)を行わなければなりません。税務署からすると税務調査の二度手間になるのです。

修正申告と更正・決定の違いは、法的理解はもちろんのこと、調査官の内情も知っておくことが重要です。
「更正したくない」という調査官の本音を知っておけば、納得できない調査官の提案に対して、安易に修正申告してしまうこともなくなります。また、税務調査の交渉上、「修正申告に応じるから、この部分は何とかしてよ」という主張も通るのです。


「現金売上」の計上もれと重加算税

税務調査において、「現金売上」の計上もれの指摘をされ、重加算税とも指摘を受けたときどうするか?

例えば、
○領収書の控えの「一部」に売上計上もれがあった
○窓口での入金帳などには記載があるが、その「一部」を総勘定元帳に記載していなかった
などのケースです。

この場合、重加算税との指摘を受けることがあります。

重加算税を定めた国通法68条に規定する「隠ぺい」、「仮装」という行為は「故意に」行なわれることが前提です。これはどの裁決などでも示されている考え方ですので(国税不服審判所採決 平成9年12月9日、平成14年4月25日、平成17年1月11日など)、調査官が「故意でなくとも重加算税はかかる」とすれば、まったくの誤りとなります。

調査官に現金売上の計上もれを指摘されるということは、これを記載したなんらかの書類が残っているからです。当然、ここには適正に計上されている他の売上の記載もあります。売上を脱漏しようという人が他の売上も記載されている領収書、入金帳から一部のみを除外するでしょうか? 仮に売上を除外しようと考えるなら、領収書を別に切る、入金帳には記載しないなどの行動をとるでしょう。そのような行為が無いのであれば、その現金売上の計上もれは「事務処理上のミス」であり、「隠ぺい」でも「仮装」でもないのです。
このように「なんらかの書類がある」ということは「重加算税ではない」ということなのです。


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