(1)「提出」された物件を「税務署などの庁舎」で「占有」することが「留置き」ですから、「提出」と「留置き」は意味が違います
税務調査関係通達2-1(「留置き」の意義等)
(1)法第74条の7に規定する提出された物件の「留置き」とは、当該職員が提出を受けた物件について国税庁、国税局若しくは税務署又は税関の庁舎において占有する状態をいう。ただし、提出される物件が、調査の過程で当該職員に提出するために納税義務者等が新たに作成した物件(提出するために新たに作成した写しを含む。)である場合は、当該物件の占有を継続することは法第74条の7に規定する「留置き」には当たらないことに留意する
(2)調査対象物件の「提出」は「留置き」の前段階として行われる別の手続きです。
「国税通則法(税務調査手続関係)通達逐条解説 平成30年版」P53
物件の「提出」は、物件の留置き(預かり)(法74条の7)の前提として行われる場合のほか、納税義務者等への返還を予定しないで行われる場合もあるが、いずれの場合も、納税義務者等の下(事業所等)で物件が一時的に示される「提示」とは異なり、当該職員が一定期間その物件を支配下に置いて、物件の内容を確認するために行われるものである。
税務調査が実施されてから、国税側ないし納税者が 帳簿書類をコピーして国税に渡す場合には「提出」に該当し、税務調査前から納税者が保有している帳簿書類のコピーを国税側が持ち帰る場合は「留置き」になります。
税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)
問4 提出される物件が、調査の過程で調査担当者に提出するために新たに作成された写しである場合には、留置きには当たらないとのことですが、自己の事業の用に供するために調査前から所有している物件が写しである場合(取引書類の写しなど)であっても、留置きには当たらないのでしょうか。
(答)調査の過程で調査担当者に提出するために新たに作成した帳簿書類等の写し(コピー)の提出を受けても留置きには当たらないこととしているのは、通常、そのような写し(コピー)は返還を予定しないものであるためです。他方、納税者の方が事業の用に供するために保有している帳簿書類等の写し(コピー)をお預かりする場合は、返還を予定しないものとは言えませんから、留置きの手続によりお預かりすることとなります
(3)「留置き」は法律上行政処分とされています。行政処分について違法があればそれを裁判で争うことができるのですから、「留置き」が拒否できないなどということはありません。
「国税通則法(税務調査手続関係)通達逐条解説 平成30年版」P63~64
留置きは、行審法第1条(目的等)第2項に規定す「公権力の行使に当たる行為」に当たり、同法上の「処分」に該当することから、物件を提出した納税義務者等が返還を請求しているか否かにかかわらず、納税義務者等は物件が留め置かれていること(すなわち、処分)に対して同法に基づく不服申立てをすることも可能であると考えられる。
この場合、税務署に所属する職員がした留置きに対しては国税庁長官に審査請求をすることとなろう(行審法第5条(再調査の請求))。また、国税通則法に基づく不服申立てとは異なり、直接、取消訴訟を提起することも可能であると考えられる(行訴法第8条(処分の取消しの訴えと審査請求との関係))。
(4)国税としても「留置き」を 納税者に強制できないことは十分に承知しています。
税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)
問10 調査担当者から、提出した帳簿書類等の留置き(預かり)を求められました。その必要性について納得ができなくても、強制的に留め置かれることはあるのですか。
(答)税務調査において、例えば、納税者の方の事務所等に十分なスペースがない場合や検査の必要がある帳簿書類等が多量なため検査に時間を要する場合のように、調査担当者が帳簿書類等を預かって税務署内で調査を継続した方が、調査を円滑に実施する観点や納税者の方の負担軽減の観点から望ましいと考えられる場合には、帳簿書類等の留置き(預かり)をお願いすることがあります。帳簿書類等の留置き(預かり)は、帳簿書類等を留め置く必要性を説明した上、留め置く必要性がなくなるまでの間、帳簿書類等を預かることについて納税者の方の理解と協力の下、その承諾を得て行うものですから、承諾なく強制的に留め置くことはありません。
(5)国税通則法74条の7(提出物件の留置き)に規定する「留置き」は罰則の対象外とされています。
国税通則法127条
次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
三 第七十四条の二から第七十四条の六までの規定による物件の提示又は提出の要求に対し、正当な理由がなくこれに応じず、又は偽りの記載若しくは記録をした帳簿書類その他の物件(その写しを含む。)を提示し、若しくは提出した者
罰則として規定がない以上、「留置き」を拒否しても刑罰に問われることはありません。「留置き」は、税務調査の協力の範囲外であり、拒否することに問題はありません。