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病院、診療所等の医療機関における控除対象外消費税の解消に向けた一考察

認定登録 医業経営コンサルタント 登録番号8260

佐々木 保幸 (税理士 AFP)


(目次)

1.はじめに    1

 

2.本文

(1)控除対象外消費税はどのように発生するのか     2

(2)消費税の診療報酬への上乗せによる補てんで発生する問題点      4

(3)付加価値税としての消費税     5

(4)消費税の税額計算の方法と仕入税額控除の機能     5

(5)消費税に非課税取引を導入する意義      6

(6)非課税取引に対する仕入税額控除      7

(7)医療機関における控除対象外消費税の解消       8

 

3.まとめ

(1)医療の非課税を維持した上での控除対象外消費税の解消        9

(2)カナダの還付制度についての考察        9

(3)医療の課税化による控除対象外消費税の解消についての考察     10

 

.引用文献・参考文献

(1)引用文献          11

(2)参考文献          11

 

 

1.はじめに

本年10月に消費税の税率が10%に引き上げられると、病院、一般診療所、歯科診療所、薬局などの医療機関が建物の建設や医療機器、薬剤などを購入する際の負担は増える。医療(社会保険診療報酬等)に係る消費税は非課税で、その価格は診療報酬制度による公定価格となっているため医療機関には価格決定権はなく、その受取る対価に対して独自に消費税を上乗せすることができない、その一方で建物の建設や医療機器、薬剤などの購入にかかる消費税は負担することになる。この消費税相当額の経済的な負担は「控除対象外消費税」といわれ、いわゆる「損税」ともいわれる。

消費税の税率の引き上げにむけて、医療機関で発生する控除対象外消費税を解消するための税制上の仕組みについてのさまざまな提言がなされている。たとえば、四病院団体協議会は、「診療報酬への補てんの仕組みを維持した上で、個別の医療機関等ごとに診療報酬本体に含まれる消費税補てん相当額(以下、消費税補てん額)と個別の医療機関等が負担した控除対象外仕入れ税額(医薬品・特定保険医療材料を除く)を比較し、申告により補てんの過不足に対応する」1)という提言を取りまとめた。

消費税の診療報酬への上乗せによる補てんによる仕組みを維持することでは、現状において発生している問題点の抜本的な解決は望めないのではないかと筆者は考える。

また、前掲の提言では、「控除対象外消費税問題の解消に向け、・・これまでの税制改正要望で非課税還付方式を要望してきた。これについて、仕入れ税額を控除し、還付を受けることが認められるのは課税に限ってのことであるため、財政当局から消費税の基本的な仕組みと相容れないとの指摘があった。この点は十分に承知している。」2)とある。

国税庁の消費税の仕入控除税額の解説では、その基本的な考え方として、「仕入税額控除制度は、・・税の累積を排除する観点から設けられた制度ですので、課税仕入れ等に係る消費税額については、あくまで課税売上げに対応するもののみが仕入税額控除の対象になるというのが原則です。このため、非課税売上げである取引を行う事業者であっても、その取引を行うために財貨・サービスの課税仕入れ等が一般的に行われますが、本来、当該非課税売上げに対応する課税仕入れ等に係る消費税額は仕入税額控除の対象とはなりません。」3)とされる。

果たしてそうだろうか。現行の消費税法における仕入税額控除の規定(消費税法30条)は、本来の仕入税額控除の機能を制限していると筆者は考える。付加価値税である消費税において、仕入税額控除は、経済に対する中立性を確保するため、課税の累積を排除する方法として必要不可欠な要素であり、消費税の税額計算の基本構造をなすものであるから、非課税取引に対する仕入税額控除がどのような場合にもまったく認められないというのは、仕入税額控除の機能を否定するものであり不合理であると筆者は考える。

本稿では、このような問題意識を踏まえて、医療機関における控除対象外消費税の解消に向けた一考察を私見を交えて報告する。

 

 

2.本文

(1)控除対象外消費税はどのように発生するのか

前掲の国税庁の解説には、「消費税は、原則として全ての財貨・サービスの国内における販売、提供などを課税対象とし、生産、流通、販売などの各段階において、他の事業者や消費者に財貨・サービスの販売、提供などを行う事業者(法人及び個人事業者)を納税義務者とし、その売上げ(課税資産の譲渡等)に対して課税されます。消費税においては、こうした仕組みを採る関係上、各取引段階において二重、三重に消費税 が課されないよう、税の累積を排除するために、事業者の納付税額の計算に当たっては、その前段階で課された消費税額を控除する制度(以下「仕入税額控除制度」といいます。)が設けられています(法30)。」4)とある。

物品の販売、サービスの提供等が最終的に消費者にわたるまでの製造業者、卸売業者、小売業者などが介在する一連の過程で、それぞれの事業者は、仕入先に対価とともに消費税を支払い、販売先からは対価とともに消費税を受け取り、受け取った消費税から支払った消費税を差し引いた額を税務署に納税する。したがって、製造、卸売、小売といったそれぞれの取引段階においてはそれぞれの事業者に経済的な負担は発生せず、それはすべて最終的に消費者の負

担となるのが消費税の基本的な流れと仕組みである(図1 上段)。

他方、医療機関の場合、取引過程の最終段階において上記の基本的な仕組みと相違する。小売業者に相当する医療機関は、建物の建設や医療機器、薬剤などを購入する際、仕入先である製造業者、卸売業者に相当する建設業者、医療機器・薬剤などの製造、販売業者に対価とともに消費税を支払うが、消費者である患者・保険者から診療報酬を受け取る際、診療報酬そのものは消費税法において非課税とされており消費税は課税されず、税務署への消費税の納税はなされない(図1 下段)。診療報酬は公定価格となっているため医療機関には価格決定権はなく、その受取る対価に対して独自に消費税を上乗せすることができない。建設業者、製造、販売業者に対価とともに支払う消費税はそのまま医療機関の経済的な負担となる。こうした取引過程から控除対象外消費税は発生する。

 

(図1)消費税の基本的な流れ・仕組みと医療機関の場合

 

(2)消費税の診療報酬への上乗せによる補てんで発生する問題点

医療機関が建設業者、製造、販売業者に対価とともに支払う消費税は、その消費税相当額の診療報酬への上乗せにより補てんされている。診療報酬とは保険給付の対象となる医療の公定価格であり、通常2年に1度、全体の改定率が予算編成過程を通じて決定され、個別の項目については厚生労働省の審議会で設定される。

診療報酬への上乗せによる補てんは、1989年の消費税導入時、1997年と2014年の税率引き上げ時と、これまで3回行われており、1、2回目と3回目とでは上乗せの規模や考え方が異なっている。

これまでの消費税の診療報酬への上乗せによる補てんの仕組みと診療報酬の改定の経過において、「関係者の負担の公平性、透明性を確保」(『平成30 年度税制改正大綱』)が指摘されている。

①患者と医療機関それぞれにおいて負担に公平性を欠いていないか。

患者の間では、本来消費税を負担すべき人が消費税を負担せず、負担する必要のない人が負担している。例えば、消費税相当額の診療報酬への上乗せが、初診料、再診料など基本診療料を中心に割り当てられる。医療機関の高額な医療機器購入に伴う消費税であっても、その高額医療機器の恩恵を受けていない患者も含め消費税を負担していることになり、受益者と負担者が一致していない。次に、医療機関の間では、補てん不足と過剰な補てんが混在する。例えば、多額の設備投資に伴い負担する消費税に対し診療報酬への上乗せでは補てん不足となっている医療機関がある一方、医療サービスの提供にそうした設備投資を伴わず、過剰な補てんになっている医療機関も生じる。

②透明性を欠いていないか。

「患者に消費税を負担させない」という社会政策的な配慮から医療は非課税とされる。非課税はあたかも消費税負担がないという印象を与えるのに対し、実際には、診療報酬(公定価格)に消費税分が上乗せされることで、保険者と患者はそれぞれ健康保険料、窓口負担を通じ消費税相当額を負担している。その負担額は患者には通知されない。

③診療報酬による補てんの規模が医療機関の負担する消費税に見合っているか。

仮に診療報酬による補填が不足し医療機関の持ち出しとなっている場合、それが経営を圧迫し、医療サービスの低下などとして患者側にはね返ってくることにもなりかねない。ただし、持ち出しがあるのかどうか、あるとすればどの程度の規模なのかについては関係者間で合意が得られているとはいえない。上乗せしたはずの診療項目のなかにはその後廃止されたり、他の診療項目と包括化されたりしたものもあり、検証は困難な状況にある。

なお、日本医師会は、平成31年度税制改正について、「まず、消費税率10%への引上げに対応する控除対象外消費税については、消費税率が5%から8%へ引き上げられた時と同様の方法により、全額補てんされ、基本診療科へのきめ細やかな配分が精緻に行われます。」「これにより、控除対象外消費税の問題は対応できるものと考えています。」5)としている。

 

(3)付加価値税としての消費税

国税庁の消費税法に関する解説では、「消費税は、「消費」に対して、広く、公平に、負担を求めることとしている。したがって、医療、福祉、教育などの限定された一部のものを除き国内で行われるほとんど全ての物品の販売、サービスの提供等及び保税地域から引き取られる外国貨物を課税の対象としており、取引の各段階でそれぞれの取引金額に対して6.3%の税率(地方消費税分を合わせると8%)で課税する多段階課税方式による間接税である。」、「消費税は、事業者の販売する物品やサービスの価格に上乗せされて、製造業者から卸売業者へ、卸売業者から小売業者へ、小売業者から消費者へと、順次先へ転嫁していくことを予定し、最終的には、全て消費者に転嫁され、消費者が物品の購入やサービスの提供を受けることを通じて負担することを予定している税金で」あり、「生産、流通の各段階で二重、三重に税が課されることのないよう、売上げに対する消費税額から仕入れ等に含まれている消費税額を控除し、税が累積しない前段階税額控除方式になっている。」6)とされるとおり、消費税は付加価値に対して課税する付加価値税ととらえることができると筆者は考える。

 

(4)消費税の税額計算の方法と仕入税額控除の機能

消費税法における基本的な消費税の税額計算の方法は、課税期間中の課税資産の譲渡等の対価の額の合計額(消費税の課税標準額)に税率を乗じた金額(課税標準額に対する消費税額)から課税仕入れに係る消費税額を控除する。

「消費税は、事業者の販売する物品やサービスの価格に上乗せされて、製造業者から卸売業者へ、卸売業者から小売業者へ、小売業者から消費者へと、順次先へ転嫁していくことを予定し、最終的には、すべて消費者に転嫁され、消費者が物品の購入やサービスの提供を受けることを通じて負担することを予定している税金で」7)あり、税制改革法においても、「消費税は、事業者による商品の販売、役務の提供等の各段階において課税し、経済に対する中立性を確保するため、課税の累積を排除する方式によるものとし」(第102項)、「事業者は、消費に広く薄く負担を求めるという消費税の性格にかんがみ、消費税を円滑かつ適正に転嫁するものとする。」(第111項)とされる。

仕入税額控除は、付加価値に課税する消費税を成り立たたせ、経済に対する中立性を確保するため、課税の累積を排除する方法として必要不可欠な要素であり、消費税の税額計算の基本構造をなすものである。

現行の消費税法における仕入税額控除は、課税期間中の課税標準額に対する消費税額から、その課税期間中に国内において行った課税仕入れに係る消費税額を控除することとされている(第30条)。現行の消費税法における仕入税額控除の規定は、本来の仕入税額控除の機能を制限していると筆者は考える。

 

(5)消費税に非課税取引を導入する意義

現行の消費税法において非課税取引(国内における非課税)とは、次の要件に該当する資産の譲渡等(事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供)について消費税を課さないこととされるものである。(第61項、別表第1

①税の性格から課税対象とすることがなじまないもの

課税標準である付加価値の算定が困難であるか、税収に比して執行に係るコストが大きいもの

②社会政策的な配慮に基づくもの

医療、福祉、教育、文化、慈善活動など社会政策的または一定の公益活動によるものまたはこれらへの平等なアクセスを保障するもの、低所得者など社会的弱者への配慮ないし再分配政策(逆進性対策)によるもの

 

(6)非課税取引に対する仕入税額控除

上記(4)のとおり仕入税額控除は、付加価値に課税する消費税を成り立たせるため課税の累積を排除する方法として必要不可欠な要素であり、消費税の税額計算の基本構造をなすものであるから、非課税取引に対する仕入税額控除がどのような場合にもまったく認められないというのは、仕入税額控除の機能を否定するものであり不合理と筆者は考える。

ただし、経済に対する中立性を確保する観点から非課税取引の全般についてまで完全な仕入税額控除が機能すべきであるということが直ちに導き出せるものではない。非課税取引による控除不足税額が生じた場合であっても、その控除不足税額相当額を消費者に転嫁できれば事業者はその負担を免れることができる。この場合、控除対象外消費税は生じない。

非課税取引のうち、上記(5)①税の性格から課税対象とすることがなじまないものは、消費者に消費税の負担を求めることを回避する目的で非課税とされているものではないので、非課税取引による控除不足税額相当額を消費者に転嫁するかどうかは事業者に委ねられる。

また、上記(5)②社会政策的な配慮に基づくもののうち非課税取引による控除不足税額相当額を販売価格に織り込むことができるものについては、上記と同様に消費者に転嫁するかどうかは事業者に委ねられる。ただし、特にサービスの内容について公共性が高く、消費者への転嫁による対応が必ずしも望ましくないものについては、事業者、消費者などの実情に応じたきめ細かな対応が可能な補助金や給付金などの財政上の措置が取られるのが適切である。

そして、非課税取引による控除不足税額相当額を販売価格に織り込むことができない医療(社会保険診療等)においては、診療報酬について公定価格が定められているために医療機関に価格決定権がなく、医療機関が控除不足税額相当額を独自に保険者・患者へ転嫁できない場合、消費税が診療報酬に上乗せされ補てんされる仕組みにおいて、上記(2)の問題点が生じる。さらに、非課税取引に対する仕入税額控除がどのような場合にもまったく認められない不合理が容認されることとなると、医療は課税するほかはなく、医療の非課税によってこれまで維持してきた基礎的な医療は社会保険診療により国民全体に平等に適用されるべきという国民皆保険の原則やフリーアクセスといった医療政策の基本理念との整合性が損なわれやすくなるのではと筆者は考える。

なお、非課税取引に対する仕入税額控除について考える場合、非課税取引と免税取引(ゼロ税率による課税)の相違を整理しておく必要がある。「免税とは、一定の要件を満たした場合に、資産の譲渡等について課税されるべき消費税を免除することを」いい、現行の消費税法(第7条)においては「消費税は、国内において消費される財貨やサービスに対して税負担を求めることとしている(このことを「消費地課税主義」又は「仕向地課税主義」という。)ことから、輸出して外国で消費されるものや国際通信、国際輸送など輸出に類似する取引については、消費税を免除することとしている」8)とされる。

免税取引は、税率がゼロパーセントであるため消費者に負担を求めないという意味では非課税取引と同様の効果があるが、課税取引の一形態であり非課税取引とはまったく相違するものである。

 

(7)医療機関における控除対象外消費税の解消

消費税が診療報酬に上乗せされ補てんされる仕組みにおいて生じる上記(2)の指摘は、医療に係る消費税を非課税としながらその控除不足税額相当額を公定価格である診療報酬で補てんするという無理な対応から生じているといえる。公定価格である診療報酬は、医療情報の非対称性から生じる弊害を防止するための措置であると同時に、国の医療政策を実現ないし誘導するための手段とされる。医療機関は収入の大半を社会保険診療に依拠しているため、診療報酬の改定に敏感に反応することとなり、これが有効に作用する。

医療機関において生じる控除対象外消費税は、現行の消費税法の仕組みから必然的に発生するものであるから、その時々の経済状況や財政事情とは無関係である。そうであれば、控除対象外消費税の解消は、その時々の経済状況や財政事情を踏まえて柔軟に対応する診療報酬改定という裁量行政に依拠するのではなく、控除対象外消費税の問題を診療報酬制度とは明確に切り分けて、租税法規に従い裁量の余地なく執行されることが妥当であると筆者は考える。

 

3.まとめ

(1)医療の非課税を維持した上での控除対象外消費税の解消

上記2.(6)のとおり、仕入税額控除は、付加価値に課税する消費税を成り立たせ、経済の中立性を確保するため課税の累積を排除する方法として必要不可欠な要素であり、消費税の税額計算の基本構造をなすものであるから、非課税取引に対する仕入税額控除がどのような場合にもまったく認められないというのは、仕入税額控除の機能を否定するものであり不合理であると筆者は考える。さらに、医療の非課税は、基礎的な医療は社会保険診療により国民全体に平等に適用されるべきという国民皆保険の原則やフリーアクセスといった医療政策の基本理念と整合している。

付加価値に課税する消費税では、事業者において控除不足税額相当額が生じた場合は、まずはこれを消費者へ転嫁することとなる。控除不足税額は第一義的には事業者のコストであるから、そのコストは販売価格に織り込むことで解消するのが通常の価格決定の仕組みである。控除不足税額相当額の消費者への転嫁が保障されず、事業者において控除対象外消費税が生じた場合には、それを排除する制度を導入することは妥当であると筆者は考える。事業者による価格決定が十分に機能しない代償措置として、消費税法等による税制上の措置により控除不足税額相当額を還付する仕組みにより対処するのである。

控除対象外消費税を解消する方法として、消費税法等による税制上の措置により、医療の非課税を維持した上で、事業者である医療機関において発生する控除不足税額相当額を還付する仕組みを導入することは妥当であると筆者は考える。仕入税額控除の課税の累積を排除する機能を還付という仕組みで対処するのである。(図2)

 

(2)カナダの還付制度についての考察

医療の非課税を維持すると、現行の消費税法上控除対象外消費税が生じる。非課税を維持したままこの問題に対応したのがカナダの還付制度(public service bodies rebate)である。

カナダの付加価値税(Goods and Services Tax,GSTHarmonized Sales Tax,HSTQuebc Sales Tax,QST)においては、病院を含む公的機関については、申告により非課税売上に対応する控除不能の仕入税額のうち一定部分の金額に対して還付を行う制度が導入されている。法形式上は還付であるが、その経済的効果は仕入税額控除と同じであると考えられる。

カナダの還付制度は1991年のGST施行時から導入されおり、これまで基本的な枠組みに変更がなく制度として安定している。カナダとの法的、経済的、さらには社会的な環境の相違、また還付の対象、還付割合など検討すべき問題は多々あるが、基礎的な医療は国民全体に平等に適用されるべきとする医療政策をもつわが国と同様の理念を有するカナダの制度を参考にすることは妥当であると筆者は考える。

 

(図2)消費税の基本的な流れ・仕組みと医療機関の場合

 

(3)医療の課税化による控除対象外消費税の解消についての考察

医療の非課税を課税へと現行の消費税法を改定し、控除対象外消費税を解消するため、主に次の2方法の検討が見うけられる。これらについて私見を交えて若干の考察を行う。

①免税取引(ゼロ税率による課税)とする方法

医療を免税取引(ゼロ税率による課税)とし、現行の消費税法の仕入税額控除(第30条)を適用すれば控除対象外消費税を解消することはできる。免税取引は課税取引の一形態であり、非課税取引とはまったく相違するものであるが、税率がゼロパーセントであるため消費者に負担を求めないという意味では非課税取引と同様の効果がある。しかし、そもそも免税取引は、消費税の財源調達機能(政府が提供する公共サービスの資金調達)を無力化するものであるからその適用範囲は可能な限り限定すべきものと筆者は考える。現行の消費税法は、「消費地課税主義」という付加価値税の国境税調整のために、輸出して外国で消費されるものや国際通信、国際輸送など輸出に類似する取引のみに限定して免税取引としている。

社会政策的な配慮を、所得税をはじめとする消費税以外の税制や医療保険制度を含む他の社会保障制度に求める方法

物品の販売、サービスの提供等について、医療機関も例外なくそのすべてを区別することなく標準税率でいったん消費税を課税し、その上で低所得者など社会的弱者への配慮ないし再分配政策(逆進性対策)を所得税制や社会保障給付で対処することにより、また医療保険においても、たとえば、国民健康保険料の減免制度、月々の窓口負担に上限を設ける高額療養費制度など所得水準やその要した医療費に応じた健康保険料や窓口負担の軽減などを通じて、社会政策的な配慮がむしろ効率的に実現できるという考え方がある。これらの制度の総合的、一体的な検討が必要となるなかで、迅速かつ適正に制度の構築や整備、運用が行われれば問題はないのであるが、これらに時間を要し、社会政策的な配慮の具体化が後景に追いやられることがないのかという懸念が生じると筆者は考える。

 

4.参考・引用文献

1)引用文献

1)2)四病院団体協議会、控除対象外消費税問題解消のための新たな税制上の仕組みについての提言―消費税率10%への引き上げに向けて― 2018826日 1

3)4)国税庁、-平成236月の消費税法の一部改正関係-「95%ルール」の適用要件の見直しを踏まえた 仕入控除税額の計算方法等に関するQ&A〔Ⅰ〕【基本的な考え方編】 1

5)日本医師会「平成31年度税制改正について」(平成31110日)2

6)78)国税庁、税務大学校講本、消費税法(平成30年度版)8頁、24

 

2)参考文献

1)安部和彦、消費税の税率構造と仕入税額控除 医療非課税を中心に、白桃書房 2015

2)公益社団法人日本医業経営コンサルタント協会、医業経営コンサルタント

指定口座・一次試験テキスト、2018

3)二宮修、図解 消費税 平成30年度版、大蔵財務協会、2018

4)公益社団法人日本医業経営コンサルタント協会、医療機関等における税制

のあり方に関する提言 ―充実した医療・介護提供体制の確立と医療機関

等の経営安定化のためにー、2018年105日(201967日アクセス)

https://www.jahmc.or.jp/media/files/pdf/topics/20181016_teigen.pdf

5)公益社団法人日本医師会、公益社団法人日本歯科医師会、公益社団法人 日本薬剤師会、四病院団体議会、控除対象外消費税問題解消のための新たな税制上の仕組みについての提言 -消費税率10%への引き上げに向けて-、2018829日(201967日アクセス)

http://dl.med.or.jp/dlmed/teireikaiken/20180829_1.pdf

6)日本医師会、医業税制検討委員会、「医療における税制上の諸課題」および「安定的医業経営のためにあるべき税制」について 医業税制検討委員会答申、平成28年3月(201967日アクセス)

http://dl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20160323_22.pdf

7)国税庁、税務大学校講本、消費税法(平成30年度版)(201967日アクセス)

https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/kohon/syouhi/pdf

8)国税庁、-平成236月の消費税法の一部改正関係- 「95%ルール」の適用要件の見直しを踏まえた 仕入控除税額の計算方法等に関するQ&A〔Ⅰ〕【基本的な考え方編】(201967日アクセス)

https://www.nta.go.jp/publication/pamph/shohi/kaisei/pdf/kihon.pdf



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